10月はNHK大阪制作の朝ドラ『ブギウギ』がスタートしたタイミングに合わせて、ヒロインのモデルとなる笠置シヅ子と、彼女の楽曲のほとんどを手がけた作曲家・服部良一の世界をお届けしました。
1914年、香川県で生まれた笠置は1927年、大阪松竹楽劇部(OSK日本歌劇団の前身)に入り“三笠静子”の芸名で初舞台。その後、芸名を“笠置シズ子”と改め、服部良一と組んでジャズ歌手として売り出します。戦時中は当局の指導により活動が制限されますが、終戦後の1948年に発売した「東京ブギウギ」が大ヒット。“ブギの女王”として一世を風靡します。1956年に歌手を引退した後は芸名を“笠置シヅ子”と改め、女優として舞台やドラマで活躍しましたが、1985年に70歳で他界しました。
一方、服部は1907年に大阪市で生まれ、19歳で大阪フィルハーモニック・オーケストラに入団。1936年、日本コロムビアの専属作家となり、「雨のブルース」「別れのブルース」「蘇州夜曲」「一杯のコーヒーから」「湖畔の宿」などのヒットを連発します。戦後は「東京ブギウギ」のほかにも「東京の屋根の下」「青い山脈」などが大ヒット。それぞれ国民的なスタンダードソングとなりました。その後は日本作曲家協会会長を務めるなど、長く活躍しましたが、1993年に85歳で死去。その1ヶ月後、作曲家としては古賀政男に続く国民栄誉賞を受賞しています。
笠置や服部が所属していた日本コロムビアでは『ブギウギ』の放送に先立ち、関連作品集を相次いでリリース。番組ではその企画をプロデュースしたコロムビアの衛藤邦夫さんをゲストにお迎えし、2人に関するお話を伺いました。
そしてInformationコーナーにはスペシャルゲストとして野口五郎さんが登場! デビュー以来「プロの音響・照明・スタジオミュージシャンをパッケージ化した全国ツアーの開催」、「ライブの感動を持ち帰ることのできる“テイクアウトライブ”の開発・実用化」、「音楽や音声を媒介として聴く者に癒やしや感動を与えることができるとの研究成果を持つ“DMV(深層振動)”の推進」など、生音を届けるライブの質の向上に取り組んできた五郎さんですが、実はホテルにおけるディナーショーのパイオニアでもあります。今回はNHK交響楽団のソリストたちとコラボした新しいスタイルのステージ(10月27日に東京・八芳園で開催)を企画した経緯と「豊かな音楽を伝えたい」という想いを伺いました。
“笠置シヅ子とブギウギの時代”特設サイト
笠置シヅ子『笠置シヅ子の世界~東京ブギウギ~』
<PLAYLIST>
01.「東京ブギウギ」笠置シヅ子(1948)
作詞:鈴木 勝 作曲・編曲:服部良一
歌手・笠置シヅ子の出世作。1947年9月に大阪の梅田劇場で初披露され、東京では10月の日本劇場公演『踊る漫画祭・浦島再び龍宮へ行く』で歌唱されました。12月公開の東宝映画『春の饗宴』の劇中歌に起用され、1948年1月にレコード(SP盤)が発売されると大ヒットを記録。直立不動で歌う歌手が大勢を占めるなか、ダイナミックに歌い踊る笠置は注目の的となり、やがて“ブギの女王”と呼ばれるようになります。
BGM.「ハッピー☆ブギ」中納良恵、さかいゆう、趣里(2023)
作詞・作曲・編曲:服部隆之
2023年10月2日にスタートしたNHK朝の連続テレビ小説『ブギウギ』主題歌。笠置の楽曲のほとんどを作曲した服部良一の孫で、ドラマの音楽監督を務める服部隆之が書き下ろしたナンバーです。当初はEGO-WRAPPIN’のボーカル・中納良恵と、シンガーソングライター・さかいゆうが歌唱する予定でしたが、ヒロインを演じる趣里の歌の進境が著しいことから、服部の判断で3人による歌唱となりました。
02.「セコハン娘」笠置シヅ子(1947)
作詞:結城雄二郎 作曲・編曲:服部良一
彼女の魅力はブギだけではありません。戦前に発表した「ラッパと娘」(1939年)以降、「情熱娘」(1949年)「ザクザク娘」(1951年)など“娘シリーズ”でも評判をとりますが、哀愁歌謡調の本作もその1つ。当初は「コペカチータ」のB面として発表されましたが、のちに美空ひばりがこの曲を歌ってデビューのきっかけを掴むほどのヒットとなりました。服部良一の音楽で構成された映画『果てしなき情熱』(1949年公開/市川崑監督)では笠置がステージでこの曲を歌うシーンが登場します。ちなみに「セコハン」は「second hand」の略語で「中古」「おさがり」の意。
03.「ヘイヘイブギー」笠置シヅ子(1948)
作詞:藤浦 洸 作曲・編曲:服部良一
服部良一が音楽監督を務めた大映映画『舞台は廻る』(1948年4月公開)の主題歌。笠置自身もスウィング歌手役で出演しており、劇中では本作とB面の「恋の峠路」が流れます。「笑う門にはラッキーカムカム」「ワッハッハッハッハッハッハッ」「エヘヘ ウフフ オホホ イヒヒ」といった斬新なフレーズに加え、コール&レスポンスまで挿入されたポップセンスに溢れた1曲。1956年の紅白歌合戦では大トリで歌唱されました。
BGM.「ジャングル・ブギー」笠置シヅ子(1948)
作詞:黒沢 明 作曲・編曲:服部良一
笠置自身が歌手役で出演する東宝映画『酔いどれ天使』(1948年4月公開)の劇中歌。作詞は同映画のメガホンをとった黒澤明監督が手がけています。「ウワ~オ ワ~オワオ~」の咆哮で始まる本作はデューク・エリントン楽団のトレードマークだった“ジャングルスタイル”に通じるサウンド。詞の世界観はターザンを彷彿とさせる快作です。
04.「大阪ブギウギ」笠置シヅ子(1948)
作詞:藤浦 洸 作曲・編曲:服部良一
「東京ブギウギ」を大ヒットさせた服部×笠置コンビはその後も各地を舞台にした“ご当地ブギ”を次々と発表。そのなかで最大のヒットを記録したのが、復興大博覧会(1948年9月~11月に天王寺夕陽丘で開催)を記念して制作されたこの曲だと言われています。ご当地ブギはほかにも「博多ブギウギ」(1948年)「名古屋ブギウギ」(1949年)「黒田ブギー」(1951年)などが作られていますが、これはコロムビアの地方営業所からの要請もあったそうです。
05.「北海ブギウギ」笠置シヅ子(1948)
作詞:藤浦 洸 作曲・編曲:服部良一
このたび発売された2枚組CD『笠置シヅ子の世界~東京ブギウギ~』で初CD化された貴重音源。もともと北海道蓄音機商組合15周年記念曲として制作されたものの、発売元のコロムビアにも音源が存在せず、長らく“幻の曲”とされていました。今回は音楽史研究家でSP盤に造詣の深い郡 修彦氏のネットワークから当時のレコード盤を発見。実に75年ぶりの商品化が実現しました。
BGM.「エッサッサ・マンボ」笠置シヅ子(1955)
作詞:服部鋭夫 作曲・編曲:服部良一
ブギで一世を風靡した笠置シヅ子ですが、ペレス・プラード「マンボNo.5」の世界的ヒットで日本にも上陸したマンボのリズムにも挑戦しています。「ジャンケン・マンボ」とのカップリングで発売された本作は安来節をモチーフにしたマンボ歌謡で演奏は東京マンボ・オーケストラが担当。笠置はその後もマンボ調の「ジャムジャムボ」「たよりにしてまっせ」(いずれも1956年)を発表しました。
06.「別れのブルース」淡谷のり子(1937)
作詞:藤浦 洸 作曲・編曲:服部良一
笠置と同じコロムビアに所属し(のちテイチクに移籍)、“ブルースの女王”と呼ばれた淡谷のり子の代表曲。服部良一にとって初のヒット曲となりました。当初は「本牧ブルース」というタイトルでしたが、本牧の地名が全国的に知られていないこと等の理由で「別れのブルース」に改題。日本にブルースという音楽を知らしめたとされる本作ですが、ブルースコードは用いられておらず、本場のブルースとは異なるブルース調歌謡という解釈がなされています。
07.「蘇州夜曲」渡辺はま子、霧島 昇(1940)
作詞:西條八十 作曲・編曲:服部良一
1937年から50年までコロムビアに所属した渡辺はま子の代表曲。渡辺はこの時期、本作以外にも「支那の夜」(1938年)「広東ブルース」(1939年)などのヒットを放ち“チャイナメロディの女王”と呼ばれるようになりました。もともと李香蘭(山口淑子)主演の映画『支那の夜』(1940年6月公開)の劇中歌として発表された楽曲ですが、1953年には山口淑子の歌唱盤も発売されました。
<Informationコーナー>
BGM.「光の道」野口五郎(2020)
作詞・作曲:小渕健太郎 編曲:小渕健太郎、野口五郎
コブクロの小渕健太郎が作詞・作曲を手がけたデビュー50周年記念シングル。小渕には、五郎さん自身がいい化学反応が起きることを確信してオファーしたといいます。その結果、半世紀に及ぶキャリアを支えた家族やファンに対する感謝の念と愛に溢れた壮大なメッセージソングが誕生しました。ジャケットには13歳で岐阜から上京した際、駅のホームで父親が撮影した写真が使用されています。
08.「最後の楽園(DMV入り)」野口五郎(2022)
作詞:阿久 悠 作曲・編曲:筒美京平
ラリー・カールトン、デヴィッド・スピノザ、ジェームス・ギャドソン、マイク・ポーカロ、トム・スコット、デイヴィッド・サンボーンなど、超一流ミュージシャンが参加したロサンゼルス録音盤『ラスト・ジョーク GORO IN LOS ANGELES '79』に収録されたファンキーロックチューン。今回は2022年11月に開催されたbillboard大阪公演のライブ音源にDMV(深層振動)を入れたバージョンをお届けしました。
BGM.「たよりにしてまっせ」笠置シヅ子(1956)
作詞:吉田みなを、村雨まさを 作曲・編曲:服部良一
笠置が歌手引退を表明する直前に発売されたラストシングルの表題曲。ホーン・セクションとボンゴなどの打楽器をフィーチャーしたマンボ歌謡と言えるでしょう。後年、KinKi KidsがCDデビュー前にステージで頻繁に歌唱。ファンの間で人気を集めたことから1stアルバム『A album』(97年/編曲:岩田雅之)にカバーバージョンが収録されたので、若い音楽ファンの間ではKinKi Kidsの歌としてお馴染みかもしれません。
09.「買物ブギー」笠置シヅ子(1950)
作詞:村雨まさを 作曲・編曲:服部良一
1949年の日劇公演のために作られた本作は全編早口の大阪弁でまくしたてる、ラップの先駆けと言ってもいい軽快なリズム。服部は大阪の寄席で観た上方落語の「無い物買い」をモチーフに自ら詞も書いています(“村雨まさを”は服部が作詞をするときのペンネーム)。松竹映画『ペ子ちゃんとデン助』(1950年5月公開)には本作をほぼ1カットで歌いきる笠置の歌唱シーンが収められていますが、そのパフォーマンスは圧巻の一語。発売直後の米国ツアー(ハワイ、カリフォルニア、ニューヨーク)でも評判となりました。